Happy Christmas? - 2013.12.24 Tue
第10期ギルド交流会(クリスマスパーティー)の後日譚。
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「……何だい?これは……」
男は問う。
テーブルの一点を見つめながら、悲壮感すら漂わせて。
「……鍋よ」
女は答える。
男から出来る限り視線を逸らしながら。
「どうしたんですか?二人共。
早く食べないと無くなっちゃいますよ?」
「「(無くなるかー!!)」」
この世界に来て幾度目かの刻碑暦998年、クリスマス・イヴ。
森奥の屋敷のテーブルにドンッと鎮座するのは
――茸以外全く見えない鍋と、どう見ても入りきらずに脇に置かれた大量の茸達。
そして、屋敷の中でただ一人。
上機嫌に鍋をつつく男の姿だった。
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切欠はそう、ギルドの交流会。
丁度クリスマスシーズンという事もあり
其処で行われたプレゼント交換。
誰のプレゼントが当たるか判らない筈のその席で
見覚えのある包みをシエルが手にしたのが昨日の事。
中身が"茸栽培セット"だと聞いた途端
色々と教えて貰い、彼の愛する茸に興味を持っていた好奇心旺盛な彼女が
「よく判らないから、育て方…教えてくれる?」と言い始めるのは至極当然の事で
それはもう愉しそうに教わりながら、茸栽培を開始した。
1日でってどの位育つのかしら?
料理に使える位かしら?
そんな風にわくわくしながら床に就いて一夜明けた今日。
茸の様子を気にしながら
いつも通り朝食を作りにキッチンへと向かった彼女が目にしたものは
―――茸の森だった。
速度・量共に、通常では考えられない勢いで成長したそれらは
添えられたカードに記されていた通り、正しく"Pilz印"であり
このプレゼントを用意した男が"普通に考えられる範囲"の品を用意する筈がなかったのだ。
「(やっちゃった…!)」
付き合いの長さから、少し考えればこうなる前に導き出せた答え。
けれども、昨日の彼女はクリスマスの空気からか
愉しそうに教えてくれる男に絆されてか
全く、そう…微塵もこんな事になるとは予測しなかった。
――どうやら茸自体は"普通"なようで、其処だけは救いであるのだが
如何せん量が多すぎる。
彼女がそうして頭を抱えた頃
ひょっこりやってきた男は、昨日と変わらず愉しそうに笑いながらのたまった。
「立派に育ちましたね。
エルさん、僕今日は鍋が良いです」と。
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「……エル」
男は呼ぶ、何か言いたげに。
何処までも気まずそうに、視線を合わせようとしない彼女を見つめながら。
「………」
女は無言、もう正直申し訳なさ以外何もない。
そんな様子で。
暫しそんな様子を見つめた後、折れたのは男の方だった。
「はぁ…全く、肉は入っているのだろうね?」
「何処に入ってるのか、ちょっと判らないんだけど…」
「明日は私の好きなものにしておくれよ?」
兎角入ってはいるらしい。
カタンッと響く椅子の音を聞くと、彼女はやっと顔を上げた。
「千紅叉…手伝ってくれるの?」
食前から、もう既に食べてくれるの?ですらないのだが。
量を考えると致し方ない事なのだろう。
「茸ならば私も食べられるからね。
ちー様、采姫としーちゃんを呼んできておくれ。
もう既に食べ始めている者も居るが、鍋パーティーを始めようじゃないか!」
「……千紅叉っ」
キッチンに居る采姫と、こういった席に興味がない伺杜をしっかりと巻き込んで
男が箸を手にしたのを見た瞬間、彼女の表情にやっと笑みが戻った。
ナチュラルに人員を増やし、ノルマを減らす魂胆が透けて見えるが
彼女にとっては感動の瞬間である。
「そうですよ?
ほら、早くしないと無くなっちゃいますからね?」
「「無くなるかー!!」」
仔猫が家を駆け回り全員が席に着いた所で
ツッコミと共に鍋パーティーの始まり始まり。
今日も屋敷は平和です。
男は問う。
テーブルの一点を見つめながら、悲壮感すら漂わせて。
「……鍋よ」
女は答える。
男から出来る限り視線を逸らしながら。
「どうしたんですか?二人共。
早く食べないと無くなっちゃいますよ?」
「「(無くなるかー!!)」」
この世界に来て幾度目かの刻碑暦998年、クリスマス・イヴ。
森奥の屋敷のテーブルにドンッと鎮座するのは
――茸以外全く見えない鍋と、どう見ても入りきらずに脇に置かれた大量の茸達。
そして、屋敷の中でただ一人。
上機嫌に鍋をつつく男の姿だった。
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切欠はそう、ギルドの交流会。
丁度クリスマスシーズンという事もあり
其処で行われたプレゼント交換。
誰のプレゼントが当たるか判らない筈のその席で
見覚えのある包みをシエルが手にしたのが昨日の事。
中身が"茸栽培セット"だと聞いた途端
色々と教えて貰い、彼の愛する茸に興味を持っていた好奇心旺盛な彼女が
「よく判らないから、育て方…教えてくれる?」と言い始めるのは至極当然の事で
それはもう愉しそうに教わりながら、茸栽培を開始した。
1日でってどの位育つのかしら?
料理に使える位かしら?
そんな風にわくわくしながら床に就いて一夜明けた今日。
茸の様子を気にしながら
いつも通り朝食を作りにキッチンへと向かった彼女が目にしたものは
―――茸の森だった。
速度・量共に、通常では考えられない勢いで成長したそれらは
添えられたカードに記されていた通り、正しく"Pilz印"であり
このプレゼントを用意した男が"普通に考えられる範囲"の品を用意する筈がなかったのだ。
「(やっちゃった…!)」
付き合いの長さから、少し考えればこうなる前に導き出せた答え。
けれども、昨日の彼女はクリスマスの空気からか
愉しそうに教えてくれる男に絆されてか
全く、そう…微塵もこんな事になるとは予測しなかった。
――どうやら茸自体は"普通"なようで、其処だけは救いであるのだが
如何せん量が多すぎる。
彼女がそうして頭を抱えた頃
ひょっこりやってきた男は、昨日と変わらず愉しそうに笑いながらのたまった。
「立派に育ちましたね。
エルさん、僕今日は鍋が良いです」と。
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「……エル」
男は呼ぶ、何か言いたげに。
何処までも気まずそうに、視線を合わせようとしない彼女を見つめながら。
「………」
女は無言、もう正直申し訳なさ以外何もない。
そんな様子で。
暫しそんな様子を見つめた後、折れたのは男の方だった。
「はぁ…全く、肉は入っているのだろうね?」
「何処に入ってるのか、ちょっと判らないんだけど…」
「明日は私の好きなものにしておくれよ?」
兎角入ってはいるらしい。
カタンッと響く椅子の音を聞くと、彼女はやっと顔を上げた。
「千紅叉…手伝ってくれるの?」
食前から、もう既に食べてくれるの?ですらないのだが。
量を考えると致し方ない事なのだろう。
「茸ならば私も食べられるからね。
ちー様、采姫としーちゃんを呼んできておくれ。
もう既に食べ始めている者も居るが、鍋パーティーを始めようじゃないか!」
「……千紅叉っ」
キッチンに居る采姫と、こういった席に興味がない伺杜をしっかりと巻き込んで
男が箸を手にしたのを見た瞬間、彼女の表情にやっと笑みが戻った。
ナチュラルに人員を増やし、ノルマを減らす魂胆が透けて見えるが
彼女にとっては感動の瞬間である。
「そうですよ?
ほら、早くしないと無くなっちゃいますからね?」
「「無くなるかー!!」」
仔猫が家を駆け回り全員が席に着いた所で
ツッコミと共に鍋パーティーの始まり始まり。
今日も屋敷は平和です。
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